クリストファー・ノーラン監督「インセプション」は意外といいけど、

女子中学生リハーサル。
演技未経験の子も多いので、ストレッチや発声をやった。緊張している様子なので、レクリエーション的なこともやって遊んだ。それから、ムンクの「思春期」を観賞して感想を聞き、解説文を読む。「害虫」の一部のシーンも鑑賞した。「害虫」の蒼井優のお母さん役を演じた大沼百合子さんが今回出演して下さる。
打ち合わせをして、新宿へ。
演出部チーフとチョコポップコーン食べながら、東急ミラノで「インセプション」鑑賞。


「マットリックス」の方法論を初めて発展できた作品。CG技術が革新的に成長した結果、非現実的な現象を写実性の高い映像で表現することが可能になった。要は「何でもアリ。」になった。しかし現実世界が舞台では「何でもアリ」は不可能だ。「マトリックス」が偉いのは虚構世界を舞台にしたこと。虚構の世界なら、「何でもアリ」だ。
マトリックス」以降無重力アクションを取り入れた沢山は多くあったが、現実世界でやっちゃうことに不自然さは拭えなかった。
インセプション」は「夢世界」を舞台に用意した。
無重力アクションが出来るし、世界の非現実的な変形・大規模な破壊を描ける。
成る程ね!夢なら「何でもアリ」だよね。膝を打ちましたよ。発想としてはベタだけど、初めに気づいて実行した人の勝ちだよね。
「夢世界」に「アイディア強盗」というモチーフを投入したことも斬新だ。古典的な強盗アクションを「マトリックス」以降の無重力アクションで更新している。とりわけホテル廊下のアクションは興奮した。
「夢世界」にはルールがある。ルールを踏まえて行われる闘いはゲーム的なワクワク感がある。「ジョジョ」的な愉しさ。

ノーランは原作モノ・続編モノである「ダークナイト」をヒットさせて、オリジナル脚本を大予算で撮れるチャンスを得た。ここで外しちゃう人は多い。
アロノフスキーはオリジナル脚本のSF「ファンテン」でフルスイングして空振りした。丸坊主ヒュー・ジャックマンが座禅組んで宇宙を浮遊するトンデモ映画だった。そんで、「レスラー」で復活するまで干された。
ノーランは外さなかった。一般層にもウケる作品に仕上げた。打つべきタイミングで打った。凄い。商業って外しちゃいけない球があるんだと思う。

役者も良かった。
ホテル廊下アクションのジョセフ・ゴードン=レビットはとにかく格好良かった。「ハード・キャンディ」のエレン・ペイジは大きくなりましたね。「パブリック・エネミーズ」のマリオン・コティヤールは眼力が強い。レオナルド・ディカプリオは「シャッター・アイランド」と似た役柄だけど、ああゆう精神的にボロボロだけど、表面的にちゃんとした大人ぶってるキャラクターは適役。強盗集団のトップなのに精神的に問題を抱えていて、そのせいで仲間が危険にさらされる。プロとしてダメ過ぎ。終盤に至っては完全にディカプリオのせいで作戦が失敗し、仲間が死にかける。良かった。

ハンス・ジマーの音楽は「ダークナイト」に続いて素晴らしい。

不満はあります。
インセプションの方法が具体的なアクションとして示されなかったのは残念。夢から覚める方法(殺す、キック)、秘密を隠している場所(金庫)は具体的に示されていて、素晴らしかったのだが。
強盗集団に渡辺謙が加わるのは変だよね。航空会社をひょいっと買い取れる巨大企業のトップなのに、超危険な現場に参戦するなんてアリえない。渡辺謙にもアクションに参加して欲しかった気持ちは分かるけどさ。
絶対ダメだと思ったのはラスト。このテの題材なら「夢か、現実か分からない」って終わるのは定石なんだから、あんなベタな逃げ方しちゃうのはどうだろうか。妻の死の真相は独創的で面白かったのになぁ。「現実に戻れた!」「夢のなかに留まった!」と言い切れるような力強いフィクションを期待した。
ダークナイト」を観たときはヒース・レジャーの狂気に惹かれつつも、ノーランのギチギチに理性でコントロールしようとする思考に「コイツ信用できない」と思った。
やっぱり今回も「コイツ信用できない」と思ったのでした。

でも悔しいかな、面白い映画、だとは、思います。