『アメリカン・ファクトリー』
スティーヴン・ボグナー、ジュリア・ライカート監督『アメリカン・ファクトリー』
不況で閉鎖したアメリカの工場を、中国企業が買い取り、再開する。失職していた地元民は喜ぶ。
しかしアメリカと中国の文化的差異が次々とトラブルを呼ぶ
。
中国人だったら素直に従うことでも、権利意識が強いアメリカ人からは反発されて、扱いに困惑する。アメリカ人の対応講座が開かれ、「アメリカ人は褒められて育てられるから、みんな自意識過剰。誉めながら指示すると、言うこと聞くよ」と教える。
アメリカ人労働者は安全性よりも生産性を重視する中国企業に憤る。
規定を無視した指示を受け、怪我人が増える。しかも以前よりも給料が大幅に下がっているのだ。労働組合をつくろうとするが、中国企業側は拒否する。不満はたまって、労働組合結成のために行動する労働者たちが現れる。中国企業はコンサルタントを雇って、労働組合結成を阻止しようとする。
比較すると、日本は同じアジア圏の中国と似た労働環境なのだなぁと感じる。
例えば、朝礼を行い、整列して、挨拶練習する慣習だ。アメリカ人は朝礼をしないので、この慣習に驚く。
本作は中国側にもアメリカ側にも寄り添って、それぞれの苦悩を丁寧に描写している。
だからこそ、両者の間にある溝が、埋められないものであることが明らかになる。
最終的に労働組合をつくられず、行動した労働者は解雇される。
機械が導入し、さらに多くの労働者が解雇されることが予見される。
本作が炙り出す資本主義というシステムだ。生産性を求めていく末にある残酷な現実。
勝利したはずの中国企業の社長の虚無的な表情が、資本主義を象徴しているように思った。