残酷思い出

劇場は満席。立ち見の観客もいた。

ホラー映画ライターとホラー映画作家とホラーファン、つまり「こっち側の人間」のみに囲まれての上映。人体が損壊し、血が噴出するたびに、笑いと感嘆が洩れる。普段は「あっち側の人間」に蔑まされる映画たちが健全なリアクションで迎え入れられた。

拙作「牛乳王子」で血の噴出に対して女が傘を開いた瞬間に、客席が「おおっ!」って声が聞こえたときは泣きたくなった。

「あっち側の人間」に「目を背けたくなった」と侮蔑の言葉を浴びせられた心の傷が癒えた。



他の上映作も愉しかった。「そのテがあったか!」っていう発見があった。

70年代ホラーの予告篇的に本編を編集した「FRIEND IS THE DEAD」。

独特の間とドストレートな説明台詞が映画祭最大の爆笑をさらった「超能力少女めぐみ-脱出!超能力地帯-」。

ゾンビと老後を重ねた「ヒューマンエボリューション」。

クレイアニメでレイプリベンジものをやった「プッシーキャット」。

ロマンポルノからホラーへの転調が愉快な「着ぐるみ女子大生」。



「ホラーを撮るんだ」って意気込んでいる自主映画作家は僕だけじゃない。当たり前だけど、ふと不安になってしまうこともあるのです。みんなが映画で愛を語ったり、夢を語ったり、哲学を語ったり、アートを語ったりしていると、人が毛嫌いするホラーをケラケラ笑って撮っている僕はバカなのか、と思い悩むこともあるのです。

学生残酷映画祭の出会いは「ああ。仲間がいるんだ。」と勇気づけられた。自主制作ホラー仲間と出会えたことが最大の収穫だった。

打ち上げでも「エスター、最高だよね」「REC2の血のビーカーを落とすシーン、笑えるよね」「ディセント2は拾い物だよね」「SAWより狼の死刑宣告だよね」っていう会話が普通に通じて、超楽しい。

今後も仲良くしたい。



ゲストの講評は手厳しい面もあって、身がひきしまった。

古澤さんの「学生映画だから、頑張ってるでしょ?って甘えは許しちゃだめだ」って言葉には背筋が伸びた。

スクリプト・ドクターもやられている三宅隆太さんの指摘は鋭く、物語構造の問題点をさっと暴き、唸った。「牛乳王子」について、「あっち側」の映画がユルくやっている「自分探し」を、「こっち側」の手法でやった映画。真面目で紳士な作品。と評価してくださった。しかしミュージカルはダメ、とのこと。

伊東さんは新しい世代の自主制作ホラーを見れて新鮮だとおっしゃっていた。毎日ブログをチェックしているし、ホラー映画のパンフや映画秘宝でよく文章を読んでいるので、ホラー映画に造脂が深い方に評価をいただけて嬉しい。

ゲストじゃないんだけど、「呪怨」の清水崇さんがいらっしゃっていた。清水さんにはルナティック・ショートムービー・フェスティバルでも観ていただいている。「2回目のが面白かったよ」と話しかけてくださった。

美学校第一期生の古澤さんと清水さんが同じ列に座っていることに、なんだか非常に物珍しいものを見た気分がした。



そして

光栄にも学生残酷映画祭2009の大賞に「牛乳王子」を選んでいただいた。

偶然にも美学校時代の講師である古澤さんがゲストに加わって、絶対に大賞には選ばれないだろうなとは思ってた。

打ち上げで「古澤さんがいるから大賞はもらえないと思ってました」と話すと、

「教え子だからひいきしたと思われたくないじゃん。だからオレは別の作品を推した。でも三宅さんと伊東さんが「牛乳王子」を推したんだ。正直、講師として、嬉しかったよ」


古澤さんが嬉しく思ってくれたことが、妙に嬉しかった。