『可愛い悪魔』『斬る』

シネマヴェーラ渋谷 岸田森特集


大林宣彦『可愛い悪魔』(1982)

上映直前にプリントが切れ、しばし待ちがあって、上映開始。
火曜サスペンス劇場の一篇として作られた。『悪の種子』の翻訳を目指したのだろうか。倫理が完全に抜け落ち、欲しいものを得るために人を殺しまくる少女の物語。劇場から文字通り「ひーっ」という声が挙がった。少女が女教師を蹴り殺したり、水責めにしながら拍手をして喜んだり、振り切った悪魔性が壮絶。犯行に気づいた男を焼死させる場面では、ニコニコ笑って一旦フレームアウトし、再度フレームインしておどけたように一瞬目を剥くところが強烈だった。
過剰な残虐性も見どころ。冒頭の結婚式は暴風のなかで行われている時点で不穏なのだが、新婦が落下死したときにわざわざ両足をあらぬ方向へ曲げる過剰さ。透明な壺が頭にスポっとハマるあり得なさもアリな世界だった。意味不明だったけど、主人公が少女の部屋に忍び込んだ場面で、観客側を見ている人形の腕がカクって動くところ、超怖かった。なんだったんだろう。
岸田森の「あそこ!あの窓!悲しい!事故!」は笑った。


岡本喜八監督『斬る』(1968)
岡本監督の作品をスクリーンで観るのは数年前の『座頭市と用心棒』(1970)以来なんだが、カット割りの凄さが今回初めて分かった気がする。以前は未熟者で全然理解できていなかったように思う。これでだけ複雑に人間が入り組んだドラマを非常に痛快さを感じられるよう語っている。2時間以内で!とんでもなくハイレベルな技術。
侍社会に欺瞞を感じてドロップアウトしてのらりくらりしながら、仁義を守る仲代達矢と、百姓出身で侍ワナビーでありながら、泥臭い女としかセックスをしない高橋悦史の対比が素晴らしかった。会話の掛け合いも楽しい。「斬る」「誰が?」「俺が」「そうか」とか、書き出すと平凡なやり取りだけど、芝居と編集が絶妙で吹き出した。
岸田森の切なさも良かった。