『バルカン超特急』『神の悪手』

アルフレッド・ヒッチコック監督『バルカン超特急』(1938)

コミカルなトーンで各キャラクターが紹介される。

ギター弾きが殺されるショット。ギター弾きの背後に、首を絞めようとする犯人の手の陰がフレームインし、続いて手がフレームインし、ギター弾きは首を絞められてフレームアウトし、苦しむ陰がフレームに残る。美しい。

窓に浮かび上がる失踪者の名前。窓に張り付く証拠品。窓を伝う客室への移動。列車という空間を活かしたミステリやアクション。

二人が失踪者の眼鏡の破片を発見した場面。破片を集める様子を映していると、唐突に第三者の手を映したショットが挿入される。唐突さが怖い。

全身を包帯に巻いた患者の入れ替え。

薬を入れたワインを飲ませる場面。薬の入ったワインを画面手前に配置し、男をローアングルで映す。人物が下手によって、上手にワイン。上手上部に空白があり、やや落ちつかない構図が不安をかき立てる。

ホテル→移動する列車→停車した列車→目的に到着 というステージの変化がシンプルで力強い。

老婦人がスパイ、暗号がメロディという意外性。ホテルでの演奏も伏線になっていた。ラストでメロディが鳴るのが気持ちいい。

 

芦沢央『神の悪手』

将棋にまつわる短編集。

傑作ドラマシリーズの第1話を読んでいる印象。続きを読みたい気持ちもあるが、想像の余地があるからこその面白さもある。

特に『弱い者』が良かった。自分も被災者の子供と将棋をしたことがあり、その子も震災以降初めて将棋を覚えたが、めちゃくちゃ強かった。