『近松物語』

溝口健二監督『近松物語』(1954)

アンジャッシュ的なすれ違い構造。

以春が茂兵衛に激昂し、おさんが宥める。カメラは引き画で、全体を収める。そこへお玉がやってきて、嘘を言う。それは茂兵衛を守るためであり、おさんへの感謝であり、セクハラをする以春への抵抗でもある。お玉の発言が嘘であることを知る茂兵衛・おさんのバストショットがさっと差し込まれる。はっとした。

ラストシーンでおさんの顔は映されない。セリフでは「なんて嬉しそうな顔」と説明される。そこまでを観てきた者なら、そうに違いないと思える。悲劇だが、清々しさのある結末。