『八仙飯店之人肉饅頭』『エボラ・シンドローム』『タクシーハンター

90年代のエログロ香港映画がHTC渋谷で上映されます


ハーマン・ヤウ監督『タクシーハンター』(1993)

妻をタクシー運転手に殺された主人公が悪質タクシー運転手を無差別的に殺していく。
スコッセシ『タクシードライバー』は意識しているのだろうか。だとしたらオマージュの捧げ方、間違っているけどw
後の『八仙飯店之人肉饅頭』『エボラ・シンドローム〜悪魔の殺人ウイルス〜』にくらべるとキャラクターに対して優しさがある。主人公となる真面目なタクシードライバーはちゃんと見逃してあげるし、タクシー運転手たちに主人公がフルボッコにされるところは泣ける。
八仙飯店之人肉饅頭』『エボラ・シンドローム〜悪魔の殺人ウイルス〜』は警官が不快なバカとして描かれている。主人公を追うデブ警官も序盤ではバカっぽく描かれている。目玉焼きの君をストローですすって、そのあとジュースを飲むっていう生理的にキモイ描写もある。しかし終盤で父娘関係が描かれ、共感できる人物となる。


ハーマン・ヤウ監督『八仙飯店之人肉饅頭』(1993)

観た記憶があったのに、今回見直していたら、初見だったとこに気づく。でもなぜ観た記憶があったのか。
親に連絡して聞いてみた。
近所のレンタルビデオ店に「残酷映画コーナー」なるものが設けられ、父はそれを片っ端から借りていた。そこに並んでいた本作も借りてきた。母は当時小学生だった僕に「人肉を食べる映画を観せるのは不味い」と判断した。
しかし母は鑑賞後、興奮のあまり「お母さん、凄い映画観たよ!人肉を饅頭にして食べるの!!」とストーリーを事細かに語ってしまい、僕は観ていないのに脳内で人肉饅頭映画が出来上がったようだ。レンタルビデオ店にはいっていたので、ビデオのジャケット裏にある場面写真を目にしていたことも、イメージを補完していたんだと思う。特にミンチ化された肉が複数ある小さい穴からうにゅーっと出るカット。
今回初めて観て、死体の解体から饅頭作りまでのプロセスが丁寧に描かれていて、キツかった。子どもも殺しているのがキツイ。
警察のコミカルな描写も気持ち悪い。本当に不謹慎で。


ハーマン・ヤウ監督『エボラ・シンドローム〜悪魔の殺人ウイルス〜』(1996)

おそらく『八仙飯店之人肉饅頭』のヒットを受けて作られた作品。今度は人肉バーガー。そこにエボラ熱をプラス。この単純な足し算感が妙なパワーを生んでいる奇妙な作品。『人肉饅頭』の底なし沼のような陰惨さはない。悪ノリをフルスロットルにした華やかさが魅力。
主人公が他人のセックスを盗み聞きしながら、生肉でひとりエッチをして、その肉を冷蔵庫に戻して、後に食材で使う。ここマジでキモイ。
エボラ出血熱の感染者と自覚した主人公が、警察に追われると、自分を切りつけ、血を吸ってペッペペッとか、ブーって吐き出して、エボラを撒き散らす。このアクション、ドイヒー過ぎる。共感を一切排した底なしの人でなしぶりが凄まじい。
画面上下を主人公の歯がサンドイッチして、奥に女性が配置され、口の中にカメラを据えた設定のアングルで、エボラ出血熱の菌が視覚化されて浮いているって漫画的なショットがある。これもどうかしている。
いちばん心に残っているのは、タクシーで移動する場面。わざわざタクシーがネズミを轢くショットが挿入される。物語上なんの必要性もないが、これがベストショットだと思う。生命に対するぞんざいさ。


ハーマン・ヤウ監督『イップ・マン 最終章』(2013)
人でなし映画を作り続けてきたハーマン・ヤウ監督とアンソニー・ウォンだが、本作は人間的な温かみに溢れた一作。
警官が「なにが善で、なにが悪か分からない」と嘆くと、アンソニー・ウォンが「善人にならなくていい。ただ、人を傷つけるな」と諭す。いい台詞。初期作を観たあとに聞くと、かなり動揺する。
ドニー・イエン版『イップマン』も最高だが、本作もいい。カリスマ的な格闘家といえども、社会の変遷に振り回される一市民である姿が映される。晩年のイップマンの穏やかさが胸に迫る。
終盤にもアクションが用意されている。序盤で語った「善人にならなくていい。ただ、人を傷つけるな」をテーマにしたアクションで、燃える。イップマンだけでなく、弟子たちもちょー強いとこがいい。特に妊婦が夫を守るために闘うとこがアツかった。