『オペラ座/血の喝采』

ダリオ・アルジェント監督『オペラ座/血の喝采』(1988)


眼球に対する執拗なこだわりが感じられる一作。
舞台の客席が映ったカラスの眼球からはじまり、眼球アップは繰り返される。犯人の眼球を抉り出し、ぱくっとくわえる場面もある。
ヒロインは犯人に拘束され、目の下に幾つもの針を取りつけられる。瞼を閉じると、針が刺さる仕掛けになっている。犯人は彼女の前で殺人を見せる。殺人鑑賞プレイを強要されるのである。瞼や針に血糊をつけたり、針越しのヒロイン視点を映したり、芸が細かい。眼球がこぼれ落ちそうなほど、カメラはぐっと寄っている。
目薬をさす場面では、眼球に目薬が浸透するプロセスを映し出す。目薬によって視界がぼやけていることも表現している。
女性がドア穴を覗いた瞬間に、犯人が銃弾を発射する場面では、鍵穴が銃弾を通過し、女性が眼を打ち抜かれ、さらに奥でヒロインが手にした電話機に銃弾が当たるまでを、高速度撮影で捉えている。
「どうかしている」と思う。
それがアルジェント映画を観る悦びといっていいでしょう。


変な形のナイフ。喉に刺さったナイフの切っ先が喉から見える。脳のイメージショットと、鼓動に応じた画面の揺れ。妙なこだわりを細部で発見できる。


カメラの回転が多い。ぐるーんと回りながら、トラックバックとか。突出しているのはカラス視点のショット。劇場上空でぐるぐると旋回し、客席にぐーんと迫り、犯人の眼にえいっと嘴を突き刺す。


冒頭、大物女優が劇場を出ていくまでを、女優視点らしきステディカム・ショットがある。が、人物の配置的に背中の視点のように感じる。つまり背中に眼がついている。不思議。
現れる犯人の登場位置も不思議で、たびたびフレームの外からにゅって出てくる。カメラ横にいたのなら、登場人物からは見えてるはずだ。
文法的にも自由。


演出家の性格設定が奇妙で、舞台上に生きたカラスを配置したがる。本番では上司に逆らって、カラスを大量に放り込んで、客席にパニックを起こす。彼に対しヒロインが「天才」と喜ぶのも奇妙だけど。
「歌手はみな淫売」という偏見全開の持論を語るのも楽しい。


オペラ座がモチーフなので、クラシックが基本的に流れているが、
犯人が登場すると、ヘヴィメタが鳴り響く。
ヘヴィメタを聞きながら、北欧っぽいのどかな山岳での犯人とヒロインの追いかけを眼にするシュールさは、感動を覚えた。



今度、発売されるDVD&ブルーレイは完全版らしい。
排気口から突如現れる少女の背景を説明する場面があるんでしょうな。