架空座談会 紀里谷×ノーラン×イーストウッド

激ファクに寄稿した原稿です。




架空座談会 紀里谷和明×クリストファー・ノーラン×クリント・イーストウッド


「GOEMON」大虐殺問題


□出席者
紀里谷和明CASSHERN」「GOEMON」
クリストファー・ノーランメメント」「ダークナイト
クリント・イーストウッド「ダーティ・ハリー」「許されざる者」「グラントリノ


クリストファー・ノーラン ガレッジセール・ゴリが「厄介なことになるって!」と3回云うよね?1回目は江口洋介大沢たかおを助けにいこうとする場面。まずはローなテンションで・・・
紀里谷和明 「厄介なことになりますよ」
ノーラン 2回目は大沢たかおを助けたが、豊臣秀吉に妻子を殺されたことが分かった場面。雨が降るなか、エモいテンションで絶叫する。
紀里谷 「だから言ったんだ!厄介なことになるって!!」
ノーラン エモ過ぎるよ!ゴリには直接的な利害がないんだから、何を指して「厄介なこと」と云っているのか分からないし。さらに信じ難いことに3回目がある。大沢たかお豊臣秀吉に処刑されたあと。うなだれる江口洋介に向かって、ゴリがエモく叫ぶ。
紀里谷 「だから何回も云ったよな!厄介なことになるって!!」
ノーラン 何回も言い過ぎだよ!!そもそも処刑された大沢たかお江口洋介の罪をかぶって死ぬから、厄介なことを処理してくれたはずなのに、この言葉を吐くのは矛盾しているでしょ?
紀里谷 「厄介なことになるって!」っていいたかったの。
ノーラン そうだと思ったよ。「こういう感じの台詞を言ってみたかった」ってのが多いんだよね。例えば、江口洋介は自由を求めて気まま生きてるんだけど、大沢たかおの家族が殺された場面で、大沢たかおがキレて云う。
紀里谷 「これがお前の自由の代償だ!」いい台詞だよね。
ノーラン 物語の筋を追う限り、別に「自由さ」は関係なんじゃないかって思うんだよね。前作「CASSHERN」ではラストで伊勢谷友介麻生久美子が爆発して、精子みたいな白い塊になって宇宙を飛ぶと、「許しあうべきだ」とかなんとか観念的なモノローグがはじまって、「希望。それが僕とルナ(麻生久美子)の子どもだ」と語って終わるんだけど、さっぱり意味が分からなかった。「希望」ってなんのこと?どういう流れで、その結論に至ったのか皆目検討がつかないんだよ。
紀里谷 オレの映画は感性豊かな人間じゃなきゃ理解できないんだよ。あんたは論理的に物事を捉え過ぎ。「ダークナイト」もロジックがガチガチで、堅苦しかったもん。
ノーラン アンタは独りよがりなだけだろ。脚本だけじゃなく、映像も粗い。ブルーバック影丸出しだもの。それもバカ正直にブルーバック前に立った役者を真正面から撮ったり、真横から撮ったりするから、余計にブルーバック前で芝居してます感が強調されて、観てるこっちが恥ずかしいんだよ。特に酷いのが草原のシーン。TVゲームでも今時こんなにツルツルしてないだろうってくらい景色がツルツルしてる。一種の暴力だよね。
紀里谷 ハリウッド映画みたいに予算があれば、オレだって完成度の高いVFXができるよ。
ノーラン 予算だけの問題じゃないと思うんだよね。VFXの見せ方が単純にヘタなんだと思う。例えばVFX畑出身のピーター・ジャクソンギレルモ・デル・トロはVFXを技術的に理解しているから、画面を豪華にみせるツボを心得ている。デル・トロの「ヘルボーイ ゴールデン・アーミー」は一般的なアメコミヒーロー映画よりずっと予算少ないのに、完成度は高いからね。
紀里谷 でもオレ、「カムイ外伝」の崔洋一よりはVFXの見せ方巧いぞ。
ノーラン それは認める。「カムイ外伝」のサメは酷かった。あとこれは別問題なんだけど、VFXで江口洋介を超人化し過ぎだよ。
紀里谷 だってヒーローだもん。
ノーラン 江口洋介は蟻を踏み潰すくらいの容易さで敵兵士たちを蹴散らしていくでしょ。刀を前に突き出してピョーンと飛んでいくだけで、周囲にいる兵士たちは鮮血を噴出させて倒れていく。強過ぎるよ!生身の人間だよね?ありえないじゃん。「ダークナイト」はリアリティに基づいてアクションを組み立てたよ。
紀里谷 新バットマンシリーズのリアル志向はつまんないね。リアリティに縛られている。バートン版のが良かった。
ノーラン リアリティだけの問題じゃなくて、江口洋介が強過ぎるから、アクション映画として盛り上がらないよ。大将なのに石田三成が見せ場もなく、サックリ殺される。「CURE」で警官が同僚を撃ち殺すシーンくらいのあっさり感。これだけ強いと、大沢たかおが処刑されるシーンも簡単に救えたんじゃない?って思えちゃう。
紀里谷 「ダークナイト」もバットマンとジョーカーの対決が宙ぶらりのまま終わって、盛り上がらないじゃん。
ノーラン バットマンは人殺しをしたくないから、あれでいいの!江口洋介は殺し過ぎだよ。終盤の合戦シーンで、忍者のくせに鎧を装着した江口洋介が、戦場に突撃して、徳川軍も石田軍も無関係に次々ぶっ殺していく。無差別殺人だよ。コロンバイン銃乱射事件の戦国版だね。石田軍に向かって、逆走していくと、兵士たちは足止めすることさえできず、江口洋介はノンストップで突っ切って、そのままの勢いで石田三成を暗殺する。くるっと振り向き、今度は徳川家康に向かって突進する。石田軍を蹴散らし、迫ってくる徳川軍に向かってやはり逆走し、やはり兵士たちは足止めにもならず、蹴散らされていく。死体の山が築かれていく。「地獄の黙示録」のナパーム爆撃級の大量殺戮を江口洋介が一人で行っている。で、徳川家康の目前に迫った江口洋介は云う。
紀里谷 「二度と戦をしないと誓え」
ノーラン お前が云うな!いちばん人を殺してんのはお前じゃんか!説得力ないよ。
紀里谷 江口洋介徳川家康を殺すつもりはなく、織田信長からもらった扇子を徳川家康に向けるって流れは粋だよね?
ノーラン 無差別殺人犯がかっこつけたところで、逆に怖いだけだよ!そもそも歴史上、徳川家康はこの戦に勝って、戦乱の世を治めるのだから、「二度と戦をしないと誓え」と凄む江口洋介は間抜けにしかみえない。江口洋介が止めなきゃ、戦乱の世が続きそうだって流れなら分かるけど、そうでもないし。
紀里谷 反戦がやりたかったのよ。
ノーラン 権力者を批判し、一般市民の幸福を願うような台詞はあるけどさぁ、顔のみえない一般兵士は軽々しく、それも大量に殺されるじゃん。ショッカーみたいに「その他大勢」的な扱い。殺された兵士たちに主人公が悔いるような描写は一切ない。結局、お前はボンボンだから一般市民の命なんて大した価値はないと思っているのだろ?それって結局戦争大好きな権力者と全く同じじゃないか!「ダークナイト」ではジョーカーの悪意に打ち勝つ一般市民を描いているよ。
紀里谷 一般市民も描いてるよ。一般市民ガレッジセール・ゴリが江口洋介を刺し殺すじゃん。
ノーラン 下劣な行いをする者は前作「CASSHERN」(ミッチー)も本作(ガレッジセール・ゴリ)も、一般市民で、正しい行いをする主人公は2作とも上流階級の人間って設定はどうなの?一般市民を見下してんじゃん。だから嫌なんだよ、ボンボンは。
紀里谷 一般市民はヒーローの引き立て役なんだから、いいじゃん。ゴリに刺されて、江口洋介が蛍の舞う森のなか絶命するシーンなんて、自己犠牲的な感じがロマンチックでいいでしょ?
ノーラン 無差別殺人犯を甘やかすな!
紀里谷 バットマンよりマシだよ。人一人殺せずにウジウジ悩んでて、バカみたい。愛する人を殺したジョーカーに復讐すべきじゃないの?織田信長の復讐を果たした江口洋介のが格好いいね。
ノーラン 9.11以降、復讐はセンシティヴなテーマなんだよ。例え復讐といえども、ヒーローが殺人をためらうことに今日性があるんだよ。「スパイダーマン3」でもヒーローは復讐相手を誤って殺してしまって心を痛め、また一方では復讐相手にも事情があったことを知って許しを与える。
紀里谷 じゃあ復讐する映画は全部ダメってことかよ。
ノーラン そんなことないよ。むしろ復讐者は映画的なキャラクターだと思う。ただし一線を越えてしまった以上、もはやまともな人間には戻れなくなってしまったってことを描かなきゃダメだよね。「SAW」っていうちゃらいスリラー撮ったジェームズ・ワンも「狼の死刑宣告」では復讐者の痛ましい末路を実直に描いていた。「ランボー4」のシルヴェスター・スタローンも、ヒーローが大量殺戮を行うが、そこに何一つカタルシスがないことを示している。大量殺戮を行ったヒーローをロマンッチックに撮っているアンタはテロを礼賛しているようなもんだ。
紀里谷 「強くなること」がこの作品のテーマだから、強くなれて、復讐を果たせて、オッケーなの。
ノーラン 「強くなれ」って言葉が繰り返されるけど、どうとらえていいのか分からないんだよ。子どものころ、母親を殺された江口洋介は、織田信長に「強くなれ」と言われる。大人になった江口洋介は、自分と同じように母親を殺された子どもを出会い、その場でいきなり恫喝する。
紀里谷 「お前が弱いから殺されたんだ」「強くなれ!」あついよね。
ノーラン 酷過ぎるよ!母親を殺されて間もない「できたてほやほやの孤児」になんてこと云うんだよ。子どもが母親を殺した相手に復讐しようとすると、江口洋介は子どもに暴力を振るい、再び恫喝する。
紀里谷 「お前のお母さんは復讐なんて望んじゃいねぇんだよ!!」ほら復讐をちゃんと否定してるよ。
ノーラン 「弱過ぎるせいで母親を殺された」と叱られたんだから、復讐はオッケーだと思って当然じゃないの?で、この理不尽な恫喝シーンの直後、江口洋介は復讐を行う。子どもに言ってることと、やってることが違うじゃないか。織田信長をヒーロー視しているけど、この映画は“信長の「強くなれ」という思想を遵守した結果、大虐殺という悲劇を起こしてしまった”って話だよね。ところがそう撮っていない。
紀里谷 だからさぁー、アンタはさっきから真面目腐った御託を並べてるけど、「どいつもこいつもぶっ殺せ」って映画は単純に愉しいじゃん。「プライベート・ライアン」のノルマンディ上陸シーンとかさ。「ダークナイト」が誉められてるのも。「どいつもこいつもぶっ殺せ」って思想の無差別殺人犯ジョーカーが魅惑的だからだよね。
ノーラン 破壊衝動を愉しむような中学生レベルの欲望に僕は身を任したくないんだ。
紀里谷 アンタのそういう生真面目さが、ジョーカーの魅力を減じちゃってるんだよ。口を裂くシーンは画面に映されないし。爆破された病院には人がいないし。大勢人間が乗っている船は爆破されないし。ジョーカーが決定的な殺戮を行う描写を避けちゃってるじゃん。
ノーラン そんなことないね。殺人を直接的に描かないことがスタイリッシュなのさ。
紀里谷 そうゆう気取りが下らないんだよ。
ノーラン そんなことないやい。ねーねーねーイーストウッドさん。黙ってないで、喋ってくださいよ。僕の「ダークナイト」と「GOEMON」、どっちが面白いですか?
クリント・イーストウッド どちらもクソだ。ガキども、オレの「グラントリノ」を観よ。そして死ね。
紀里谷・ノーラン ・・・・・・・・・・・・・・・・・・。