『i-新聞記者ドキュメント-』『なぜ君は総理大臣になれないのか』『シンデレラ』

森達也監督『i-新聞記者ドキュメント-』(2019)

先日観た『パンケーキを毒見する』に比べて、圧倒的に面白かった。

官邸記者会見での記者・望月衣塑子VS官房長官菅義偉という軸があるから、構成が引き締まっている。辺野古基地移設問題や森友学園問題、伊藤詩織準強姦事件、加計学園問題など様々な問題が取り上げられるが、VS軸があるから、ブレない。ラストに二人が異なるステージで、接近しつつ、すれ違う姿を映すことで、1本の映画として着地している。

記者が政治家に質問する。という当たり前のことがなぜかできない日本。質問する望月衣塑子が異物として際立つ。そうした皮肉を多角的に炙り出していく。他の記者や政治家・警察官が政権与党を忖度する気味の悪さ。

森達也監督が官邸記者会見になんとかして参加しようとするサブプロットもいい。作り手のスタンスが見える。裁判所内を盗撮しようとして、望月衣塑子が激怒する場面もあり、被写体との緊張感もあり、また結果的に望月衣塑子の誠実さも浮かび上がる。

菅義偉の性質もよく分かる。『パンケーキを毒見する』では過去から現在に至るエピソードを薄く掬い取ってしまった印象。『TVタックル』くらいのニュアンスになってしまっていた。本作は官邸記者会見にだけフォーカスすることで、ソリッドに性質を突いた。また、今見ると「この人が総理大臣になってしまったのか・・・」という落胆もある。

籠池夫妻の印象がワイドショーとは大きく異なる。少なくとも単なる変人ではない。インタビュー中に奥さんがやたらとお菓子を薦める姿が面白い。『FAKE』でも佐村河内守の奥さんがやたらとケーキを薦める姿が映った。こういうなんてことはない日常の仕草が映されることで、その人の人となりを感じられる。望月衣塑子が方向音痴で迷う姿を序盤と中盤で映しているのも、そのためだろう。

 

大島新監督『なぜ君は総理大臣になれないのか』(2020)

一人の政治家を追ったドキュメンタリー。17年という長い取材期間が作品に深みをもたらしている。

初めて政治家に立候補した当時の小川淳也は目を輝かせて、理想を語っている。17年という月日は徐々に輝きを奪っていく。

自民党政権民主党政権自民党政権という変遷を経ている。立場も大きく変動するので、見ごたえがある。

序盤で登場する政治家の娘は幼く、両親が選挙活動するため祖母に預けられ、涙を流す。終盤で20歳近くになった娘は、選挙活動に協力する。「政治家にはなりたくないし、政治家の妻にもなりたくない」と呟く。

白眉は小池百合子の「希望の党」に合流すべきか?立憲民主党にいくか?無所属から出馬するか?という選択を迫られるところ。理想主義では前進できず、現実的な闘い方を模索する。「希望の党」を選択したため、地元からは反発を受ける。商店街で選挙活動をしていると、握手を拒否され、罵倒される。

プロパンガンダにもなりえない危うい企画だが、被写体との一定の距離があり、ドキュメンタリー作品として成立している。小川淳也の選択に疑問を投げかけ、批判する場面もある。

小川淳也は安倍政権を批判しているが、安倍政権寄りの田崎史郎と対面する場面を用意しているところもバランス感覚の優れた選択。

 

ケイ・キャノン監督『シンデレラ』(2021)

現代的な再解釈を施したシンデレラストーリー。

シンデレラは服飾デザイナーを目指す女性。舞踏会への参加は自分がデザインしたドレスをプレゼンするため。王子と恋愛関係になっても、王族になることで、仕事ができなくなることに不安を覚える。

妖精はLGBTの黒人。

継母もまたかつて夢を抱いていたが、捨ててしまった。シンデレラに意地悪もするが、最終的には若い。

王様と妃の衝突と和解も描かれる。

王子が継承せず、シンデレラと世界旅行に出かける。そして政治に強い意欲を抱いていた妹が継承する。

ポップミュージックの編曲もあり、愉快。