『おもちゃを解放する』

酒井善三監督『おもちゃを解放する』(2011)

DVの被害女性を、二人の女性が救い出そうとする。ところが、二人の行為はとても善行とは呼べない。善意による行動だったはずなのに、それは禍々しさを呈している。この世界に起きる最も禍々しい暴力は善意によって生み出されるのではないか。

全編15分間には、息苦しいほどの緊迫感が詰まっている。

この作品は映画美学校初等科修了制作であり、そのコンセプトが実を結んだ例と言える。15分という規定があるからこそ、装飾が削ぎ落され、凝縮されて、高密度の物語が紡がれたのだろう。

 

酒井善三監督 『エピローグ』(2015)

アパートの一室に暮らすカップルのところへ、拳銃を手にした殺し屋がやってくる。男は殺されるが、女は逃げてしまう。

女を逃がしてしまった殺し屋の表情。

 

酒井善三監督『RIP』(2018)

『おもちゃを解放する』とは様相の異なる作品。柔和なルックで、軽快な音楽が鳴る。

カップルが新婚旅行を計画している幸福な場面からはじまる。ところが男性は自殺してしまう。

女性の喪失感の表現に抑制が効いており、それがどれだけ大きくて悲しいことなのか、じんわりと伝わってくる。

軽快な音楽と共に、行き場のない悲しみを爆発させる場面は胸が高まる。

本作は死を乗り越えて、生きていくことに強い肯定感を覚える。『おもちゃを解放する』と真逆と言っていいような印象。